懶惰宗他力本願寺

自らの力によらず、何かの力すなわち他力を頼み怠惰な生活と往生を願うことを要旨とする懶惰宗の本山、及び架空の宗派。

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Mutual communication between a customer and an agent is hard.


「駐車場もなく、長時間の路上駐車もできない環境であるため、すばやく作業が終わるよう荷物を分割した」

「確かに安全かもしれないが、業者をふたつに分けるというのはやっぱりお金がもったいないと思う」

「それはわかっているが、業者が煩わされずスムーズに作業するためには仕方ないと考えた」

「これから就職を控えているわけだし、なるべくなら節約した方がいいのではないか」

「先程提示した私の懸念をふまえてとくに問題無いのであればそれに越したことはない。ではお願いする」

「その業者だと人をひとり増やすだけでだいぶかかると思うが」

「その業者についてネットで調べた所、人換算ではなく量換算のようだったが、詳しいことはわからない。お願いする」

「これくらいかかる、だからもったいないのである」

「詳しいことはわからないがそうなのだな。ではお願いする」

「すると見積もりはこうなる」

「承知した。ではお願いする」

「希望額はあるか」

「こちらから希望額を提示できるのか?」

「希望額を超えているのであれば仕事を受けることができない」

「相場もわからないのに希望額を提示することはできない。見積額は法外な価格ではないし、その見積額でよい」

「ただ、これから就職してやっていくということだから、なるべく節約した方がいいのではないか」

「この見積額は下げることが可能な額なのか?」

「ざっくばらんに話そう。いくらならいい」

「だから、希望額はないし、想定していない。その見積額でいい」

「他の業者と比較しても、この額はかなり安価だと思われる」

「お願いする」

「人件費がやはりかかってくるということになるし、荷物の量も大した量ではない」

「では、2名ではなく1名という前提で見積もりを出すとどうなるのか」

「こうなる」

「では1名でお願いする」

「ただ、やはり1名だと安全面での懸念があり、荷物に対する防犯上の問題も発生してくる」

「荷物の見張りは私が代わりにするということで問題は解決できるのではないか」

「しかし、2名で作業したほうがやはり安全であり、なにか問題があったときに安全面が向上するため2名をおすすめする」

「では2名でお願いする」

「本当に2名でいいのか?業者に言われたから、と後から思わないか?」

「そもそも当初は2名で運ぶという想定だったし、値段も問題ない。お願いする」

「やはりこれからの生活もあるし、節約すべきと考える」

「本当に私は2名でその見積額で構わないし、1名でも運べてちょっと安くなるならそれはラッキー程度にしか考えていない」

「本当に2名でいいのか」

「私は本当にどちらでも構わないのだ。引越しにかかる費用はすべて親が負担するのだ、だからその額には本当に不満を抱いていないのだ、私はどちらでも構わないのだ」

「わかった」

「2名でお願いする」


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① 提案に対する回答が早すぎて、言われるがままに意見が流される癖に後から文句を言う客だと認識された説
② 本当は自分の希望額があるのに、それをひた隠しにして見積額を受け入れようとしている客だと認識された説
③ ①②を合わせて、とにかく心から納得していないのに業者の提案をのみ後から文句を言う客だと認識された説

最初から最後までまるで嘘をついていないのに、やたらと言動を疑われる感じがあったのだが、あれはなんだったのか。このオッサンの周りではいつも心理戦のようなコミュニケーション環境が構築されているのだろうか。私はオッサンの質問や提案に対して、わからないことについてはわからないと言い、オッサンの提案にそれはそうだと思えば同調していただけで、むしろやたらと本心の在処を探られるから“適当に本心っぽい感じの嘘ついた方がオッサンにとって親切なのではないか”と考え始める域にまで達していた。できればもっと安い方がいいんですけどお~とか。でも安くなる余地のある人件費を削ろうとさせたのに、1名はちょっと困るかな...という雰囲気を出してくるのは本当に不可解であった。私は、作業的に2名がやっぱり楽だよなあと思うのであれば2名コースのままでいいし、オッサンがその苦労を越えてでも新卒の民を思って少しでも安くしてやろうと思うのであれば1名コースでよかったのである。そしてこの理屈を3回くらい出してみたが、オッサンは別の所にあるらしき客の本心の行方ばかりを気にしているご様子である。最終的には、実は自分の金じゃないんで高額すぎなければいくらでもいいんすよね~とクズキャラを全面に押し出してようやくオッサンを着地させることに成功したわけだが、このたかが30分で非常に消耗したのは言うまでもない。


≪追記≫
「というわけで、疲れました。オッサンも困惑していたかもしれない」

母「あのオッサンは優しい性格だから、お前の意思決定が早すぎるのを本当に心配していた可能性がある。それにオッサンは、高額な取引や金額の変動等に対してお前がポーカーフェイスすぎるために節約の話を何回か出しただけで、お前がそれを真に受けただけだと思われる」

オッサンが軽い気持ちで言った社交辞令を真に受け、しかも一々脳内で検討してから答えるために、オッサンもただの社交辞令から会話の展開が想定外の方向に流れそうになって困惑していた、という構図だったらしい。つまり、私が嘘ついてると疑われていたのではなく、むしろオッサンの方が思ってもいない(?)ことを言っていたと考えられるわけである。そういえば私は軽いアスペルガーの気があったのだった。帰り際に「何か引越しで困ってることはあるか」とオッサンが言っていたのも社交辞令だったかもしれないのに、私は「初めての引越しだからやってみないとわからないこともわからない」とマジレスしてしまったが、あれも例えば「困ってることばっかりですう~でもありがとうございます☆」といったように答えればよかったのかもしれない。その後の「困ったこととか引越しのお悩みがあればいつでも電話してこい」も社交辞令かもしれない。とりあえず、オッサンが帰った後にバイプレイヤーズを観つつオッサンとの会話を反芻して辛くなってきて泣いたのは、客観的に見れば完全に意味不明なことだったのである。社交辞令説を採用するとすべて社交辞令なのではないかという可能性が浮上してくるのでこの会議は打ち切る。